第4章 大学4年生①

 

僕の通っていた映画学校は前期がベーシックコース、後期がアドバンスコースに分かれており、ベーシックでは1人1本監督ができるのに対し、アドバンスではシナリオコンペに通った作品のみが制作される。僕は親友のH君と共同脚本という形で執筆しコンペに臨んだが、最終選考で落選してしまった。その結果をH君に伝えると、「1ヶ月待ってくれ」と言われた。まさかとは思うが、彼は脚本でも書いているんじゃないかと考えた。予感は的中した。彼はきっちり1ヶ月後、書き下ろしの脚本を送ってきたのだ。おいおい、これから就活も本格的に始まるこのタイミングで脚本なんて送ってくるなよ……と思いながらも一応読んでみた。内容はコロナ禍を直接の題材にしたものだった。直すべきところはあったが、悪くなかった。僕の胸が少し高鳴っていることが分かった。僕はH君に電話をし、脚本に関して様々な意見を交わした。こうして僕は、高校生ぶりに他の人の脚本を監督することに決めたのだった。


映画学校は4月初頭に卒業した。映画学校については色々と思うことはあるが、振り返ってみると良い経験だったと思う。たくさんの失敗をしたが、そこから得られる学びもとても多かった。何より自分にとって一番大きかったのが、人の縁を作ってくれたことだと思う。ベーシックの講師を務めてくださったプロの映画監督とは、他の受講生の方々と共に食事をさせていただき、そこで制作に関する様々なアドバイスをくださった。第一線で活躍されている方から頂けるアドバイスはまさに目から鱗だった。ベーシックの短編制作課題で作った『ティッシュ配りの歌』では、GOENDさんを始めとする素晴らしい出会いに恵まれた。またアドバンスの課題として作り、全データが消え再撮影をするという事態に陥った『あいも変わらず』も、思わぬ形で様々な縁をもたらしてくれた。再撮影日に予定が合わなくなってしまった役者の代わりに、急遽劇研(演劇研究会)に所属している知り合いの後輩に出てもらった。その後早稲田小劇場どらま館の方から映研に、学生映画をどらま館で上映するというイベントの開催を提案された。劇研もどらま館をよく使っており、折角劇研の人に出てもらったからということで、そのイベントで『あいも変わらず』を上映させてもらったのだ。会場でもたくさんの映画サークルの人と話すことができ、さらにそこで知り合った人に誘われ、高円寺シアターバッカスにて開かれた「日本学生映画祭」にて拙作数本を上映させてもらうという機会も得られた。そしてもう1人、他の受講生の現場で知り合った役者の方とも、その後縁によって再び巡り合うことになる。


映画学校を卒業した僕は、H君が書いた脚本で新作を本格始動させた。とは言っても撮影時期の関係で就活と両立して行わなければいけなかったので、去年の映画まつり出場作品のスタッフにプロデューサーとして入ってもらうなど、たくさんの人の力を借り、分業体制で準備に取り掛かった。キャスティングはオーディションで行ったが、その中に見覚えのある人がいた。その方がまさに、映画学校の他の受講生の作品に参加していた役者さんだった。その方はアドバンスにおいても別の班の作品に参加しており印象に残っていた。選考を重ね、その方にお願いすることに決まった。縁ってすごい。今作はこのように、今まで関わりのあった人たちを中心に参加してもらったが、初めての出会いも少なくなかった。特にオーディションに応募してくださったとある方にとても助けられた。その方はこの企画の趣旨に共感し、キャストとして参加できなかったとしても、どんな形でも良いので参加させてくれないかという申し出をしてくださったのだ。この企画にとても熱意を持ってくれるのは僕としてもとても嬉しかったので、話を伺い、スタッフとして迎え入れた。結果的にその方は僕とカメラマンと役者の方と共に全撮影日に参加してくださり、とても献身的に携わってくださった。もはやこの方がいなければ撮影は成り立たなかったのではないかと思うくらいに貢献してくださった。過去一番と思われるくらいに大変な制作となり、それ故に就活も散々な結果となったが、無事全撮影を終えることができた。この『マスクを外して』という作品は現在編集中である。どのような作品になるか、また観る人にどのように受け取られるか正直全く分からないが、良い作品になっていることを願う。